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王祇祭 と その前後

(2011)



その8

2月2日:お宮にて



当屋での演能がすべて終わったあと、
筆者は一度滞在先の当人の自宅に戻り、
念のため、
望遠レンズなどを持ってお宮へ。

今回の滞在での移動は、
頻繁に当屋関係者の車に同乗させて頂き、
重い機材を運ぶ身には本当に有難かった。
この場を借りて、お礼申し上げます。


…かなり早い時間に到着したので、あたたかい王祇会館で休憩。

ベンチに座っていると、
当屋でカメラの使い方を教えて差し上げた、
キプロス人の作曲家と再会。
あれこれ音楽談義。

そんな休憩時間のあと、春日神社へ移動。







(↑)朝尋常。

春日神社の参道途中から、上座と下座が、
どちらが王祇様を先にお宮に入れられるかを競う神事。

上の写真は、お宮の中でその瞬間を待ち構える
上座・下座の当人と王祇守、提灯持ち、棚上がりの少年達。







(↑)上座と下座の当人、火鉢を囲んでの団らん風景。

お二人の背後にある、
白い布が巻きつけられたものが、
上座・下座の当屋からやってきて、朝尋常でお宮の中に戻った王祇様。

だんだんと人が集まり始める。







(↑)「めぐりの大人衆」と呼ばれる座の長老たち。
既に酒上げを済ませた方々で、
当屋が来る順に舞台まわりにぐるりと座っておられる。
舞台正面中央にある法光院柱が上座と下座の分かれ目で、
そこに一番近い人が、来年の当屋さん。

上の写真、手前の御方は、
前年(2010年)の田植えや稲刈り取材で
大変お世話になった渡部家の権作さん。



(←)こちらは権作さんのお隣の釼持博氏。
   当屋の猩々のお父上。

(↓)神様に御供物を捧げる。




今回筆者はどうしても近くから舞台が撮りたかったので、
権作さんと博さんのすぐ後ろに座らせて頂いた。




めぐりの大人衆の皆さんは、右のように、(→)
ご家族の愛情たっぷりのお弁当持参。
ポットにはお燗にした酒。

能を見ながら、食べたり飲んだり談笑したり。
こんな雰囲気も、王祇祭ならでは。

すぐそばに座らせて頂いたおかげで
筆者もあれこれご馳走になってしまった。
ご馳走様でした!




祝詞があげられたあと、脇能が始まる。

まずは上座の『絵馬』から。







この日も世帯持ちの遠藤幸男氏が大鼓で登場。
笛はあっくん、小鼓は釼持喜仁氏、太鼓が上野学氏。








前シテの尉は上座の太夫さん・斎藤賢一氏。
ツレの清楚な姥は、前日の当屋と同じく、斎藤史詠くん。








後シテの天照大神・遠藤貞吉氏。

王祇祭のプログラムには上座太夫さんの名が書かれているが、
太夫さんは、この写真でも明らかなように、前シテのみで、後半は後見役。







当屋の写真ではなかなか姿を写せなかった
秋山愛輝君の可愛らしい姿。

神楽は難しそうだったけれど、
まだ小さいにもかかわらず、立派!


『絵馬』の次は、下座の『高砂』。







前シテの木守りの老人は、
大杉地区の師匠さんである清和勉氏。

クルッとした大きな目が印象的な姥は、斎藤平馬くん。

筆者が初めて来た王祇祭(2005)で初めて見た大地踏は、
この斎藤平馬くんの大地踏だった。

すっかり大きくなって、年々お父さんそっくりに!







老人と姥は相生の松の精。

下座では、当人とそのご伴侶が共に健在の場合、
王祇祭の脇能は『高砂』になる。







(↑)後シテの住吉明神登場。
下座の太夫さんである上野由部氏。


上・下両座による脇能が終わると、大地踏がはじまる。

ついにこの日が来た。
この数年間、この大地踏を待っていた。

颯琉くんのじじちゃんの写真をカバンから出す。

小さな颯琉くんに大地踏を教えるのを心待ちにしながら、
2008年11月に逝ってしまった釼持一男氏。

せめて一緒に見たいと思って。


舞台には、上・下両座の囃子方・地謡の混成隊が登場。







まずは、上座から。

当人が王祇様の三本の矛の根元を抑え、
王祇守と提灯持ちが王祇様を開く。



   



開かれた王祇様のもとに颯琉くんが立つと、
「イヨーッ」という掛け声と共に、地謡と囃子が始まる。

「大地を元應の始にある王位…」

頬を紅潮させながら、
小さな体を一杯に、勢い良く大地を踏む。

提灯持ち役のお父さんは、
王祇様の鉾の片方を支えつつ、
小さな我が子が大地を踏むのをじっと見守る。

20年ほど前には、ご自分もこうして大地を踏んだのだ。

命は連鎖し、循環する。



  



(↑)こちらは下座の大地子、秋山瑞貴くん。

颯琉くんより2つ年上で背も高く、キリッとしたお顔立ちで、
頼りになる姉さん女房のよう。







大勢の見物人を前に、臆することもなく、凛とした様子。
とても四歳とは思えないような落ち着き。

最後の練習よりずっと良い出来だった。
舞台度胸があるのはお祖父さん譲りだろうか。

無事に終わって、カメラを置き、腰を落ち着けると、
ずっと心の中で使命としてきた仕事を果たしたような気持ち。
何というか、一つの区切りがついたような…。

筆者が「有難う」などというのはおこがましいが、
颯琉くん、有難う。
一ヵ月半、よく頑張ったね!
きっとじじちゃんも、喜んでいるはず。

文字通り「目に入れても痛くない」だろうと思うくらい、
颯琉くんが可愛くて仕方がない様子だった一男さん。
その溺愛ぶりはこちらが少々ヤキモチを焼くほど。

どんなに自分で教えたかったことだろうと思うと
やはり泣けてくる。

この日は、そばに権作さんやせつさんがいてくれて良かった。
そうでなければ終わった瞬間に
涙ボロボロ、鼻ズルズルになっていたはず。


この大地踏は、颯琉くんを教えた釼持孝文さんにとっても、
大地踏師匠デビューだったとのこと。
初めて教える孝文さんにとっても、
重責を感じながらの一ヵ月半だったことだろう。

本当に、お疲れ様でした。


大地踏が終わると、式三番。

お宮での式三番では千歳の舞は省略される。







所仏則翁は上座の釼持正氏。

前夜、上座当屋で所仏則翁を舞った釼持英正氏は、
お宮では父上の後見。







(↑)所仏則三番叟。下座の清和政俊氏。

三番の途中から
上・下共に若い衆が、威勢良い声を上げつつ地を鳴らし、
三番のリズムと相俟って、お宮は加熱する。








(↑)棚上がりの少年たちを待つ。

少年達は神前にいて、合図と共に、グッと盃を飲み干し、
脱兎の如く、舞台に向かって駆けて来る。
その少年達を手伝って、棚に上げ、王祇様を棚上の梁にかける。
これを、上座と下座のどちらが早いか競うのが、棚上がり尋常。








(↑)棚上がり神事で、棚に上がった少年達。
上座が手前で、写真中央、奥に見える棚に上がっているのが下座の少年達。

この後、小花が投げられるのを合図に
今度は王祇様をすばやく降ろし、
巨大な丸餅を吊っている綱を切って餅を落とす(餅切り尋常)。

降ろされた王祇様は衣を剥がれ(布剥ぎ尋常)、
その布は来年の王祇守の首に巻かれる。

これらの神事は一瞬のうちに行われる。
祭りは一気にクライマクスを迎え、終わるのである。

準備期間も含め、王祇祭は、
まるで一つの壮大な交響曲のようだと思う。


…すべての神事が終わると、
祭りの余韻に浸りながら、参加者は神社をあとにする。







(↑)受当屋に向かう、来年の提灯持ちと王祇守。

車から降ろしてもらって撮った一枚。
既に日が落ちている中、ストロボ無しで撮ったものなので
少々気味が悪いような、写真ではないような雰囲気だが…


首に王祇布をどっさりと巻きつけた王祇守は、
受当屋に到着して
謡をうたってもらうまでこの布を取り外すことは出来ないのだとか。

その様子も撮りたいと思いつつ、
体力&睡眠不足と、
「知らないお宅に勝手に伺ってもいいのだろうか」
という気後れで、いつも断念。
今回は、来年の当人となられる斎藤利雄氏が、
「おいで」と声をかけて下さったので、
伺いたい気持ちは、非常に、非常に強かったのだが…無念。







日が落ちた後の、一瞬の青い時間。

2月1日・2日と続いた祭りも終わってしまった。








(↑)大地子の練習を見学するために何度も往復した道。

写真中央の家が当屋当人の自宅。

村も、月山も、あっという間に闇に包まれていく。








当屋として使われた公民館にたどりつくと、
祭りで使われた諸々のものも、すでに取り外されていた。








餅切り尋常で落とされた餅を担いできた棚上がりの少年達も到着。

棚上がりの少年達は、
祭り前は精進、祭り中は結構な肉体労働をこなす。

お疲れ様でした!

無事に祭りが終わったことを祝って、
皆で皆の労をねぎらいつつ








手前の三名の方々は、
世帯持ちの芳美さん、いねさん、そしてあっくんパパ。

もうお一人の世帯持ちさん・幸男さんは
写真中央で立っていらっしゃる御方。


準備に準備を重ねてきた祭りは、この日でおしまい。

四人の世帯持ちさんをはじめ、
祭りを支えてきた皆さん、本当にお疲れ様でした!

祭りは終わっても翌日も色々なことがある。
既に、来年の当屋に向けて準備が始まっているのだ。




次のページでは、2月3日と4日の様子をご紹介しつつ、
筆者が今回の祭りで思ったこと、
東京に戻ってから聞いた感動秘話(?)などを
記したいと思います。





作成日:2011年3月18-9日

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