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王 祇 祭

(2010)



その1



今年も王祇祭の季節がやってきた。

いつも年末が近づいてくるとワクワクする。
演目は何かな、誰がどの役をやるのかな、雪はどうかな、
皆さん、練習に励んでいるかな…などなど。
黒川ファンなら、恐らく
似たような思いで年末年始を過ごすことだろう。

2010年の、筆者にとっての王祇祭シーズンは
1月28日から始まった。







昼頃、上座公民館に到着。
『船弁慶』のさらい中だった。

お馴染みの公民館だが、いつもと異なる印象。
写真奥の、以前は壁だった部分に扉がついている。
楽屋ができたそうだ。







今回の当屋当人は、
狂言の師匠さんである五十嵐喜市氏。
しかも、自ら舞台に立たれるという。
上の写真で左端の御方である。

当人が自らの当屋で舞台に立つのは稀であるとのこと。
そういう事情を知ったのは、
既に当屋での観能希望(上座か下座か)を提出した後で、
筆者は今回、下座当屋の見学希望の旨を提出していた。

…ああ〜、五十嵐さんの当屋での舞台姿を拝見したかったなぁ…
そして写真におさめたかったなぁ…と、
つくづく残念に思う筆者。
アメーバのように分裂できない我が身が恨めしい。

せめて、と思い、この公民館でのさらいは
じっくり見させて頂いた。

とにかくお元気そうなお姿で、
当人をなさるような年齢とは思えない。







こちらは練習後に撮らせて頂いた、
小鼓の師匠さんである渡部昇氏(写真右)と、
そのお弟子さんたち。
左から、秋山雅史氏と釼持喜仁氏。
秋山氏は、昨年夏から小鼓を始め、
今回が「当屋デビュー」とのこと。







さらい終了後は、テーブルを並べ、
皆で「油揚げ」(東京で言うところの「厚揚げ」?)を食す。
お疲れ様でした。
2月1日当日の演能も、うまく行きますように。








さらいの翌日は、
よくお世話になっている御宅でゆっくりさせて頂き、
その翌日は、神社の横にある伝習館で、
上座・橋本地区の練習を見学させて頂く。
手前で座っておられるのが師匠さんの釼持孝文氏、
舞台上は、『難波』で木華開耶姫を演じる遠藤拓人くん。
年齢を聞きそびれてしまったが、
筆者が今まで見てきた天女役の少年の中で、
一番堂々たる体格のようである。


…そうして1月31日、祭りの前日を迎える。








黒川通い暦19年という、
はるばる三重県からいらしている米山氏と共に
当屋さんの「年取り」行事を見学させて頂いた。
(米山氏については、次のページで写真入でご紹介。)

いわゆる大晦日の、年越し行事である。




(上)外の様子。雪が少ないとはいえ、
   やっぱり見渡せば白い世界。
(左)同じく、外の様子。ほのかな朝焼け。


この日、当屋からの使者(=当屋使い)が、
座中の人々に、
明日の神事への出席を求め、一軒一軒まわって歩く。








当屋使いの青年の予行演習。

渡部勇太氏。

当屋さんのご親戚であるため、
勇太・元生の渡部二兄弟は大活躍!
(お父上の千春氏も!)








筆者も、年取りでのお膳、ご馳走になりました。
突然お邪魔した上、ご馳走になってしまい、もっけです…

手前の汁物は、納豆汁。
豆の欠片さえ感じられないくらい細かく擂りつぶした納豆を
味噌汁に入れたものである。

民俗学者の吉野裕子氏によれば、
旧暦の新年を迎える迎春行事では
陰陽五行説に則って、
「木気」を促すために「金気」を制する。

そのため、「金気」の象徴である丸い穀類、色としての白、
金気を象徴する動物である犬や鳥を
いたぶる(実際にいたぶったり、或いはその真似をしたり)
習慣があるとのこと。

彼女によれば、黒川の豆腐焼きも、
金気を追い払うための迎春呪術であるとのことだ。

つまり、金気を象徴する丸い穀物(大豆)を
すりつぶして豆腐を作り、
これまた金気の象徴である「白い」豆腐を
串刺しにし、火あぶりにし、
最後に食べてしまう!

…徹底的に金気を追放し、
春の訪れを促す木気を助ける、ということである。

(これは陰陽五行説の中の、「金剋木」に則っている。
金気は木気を阻害する働きと考えられているため、
木気を促すためには、
「門松」に代表されるような、木気を象徴するものを使う他、
木気を阻害する金気をやっつける、というわけだ。)

年越しの日、春を迎えようという日に、
納豆をすりつぶして食すのも、
もしかしたらこうした精神の名残なのかもしれない。


…さて、年取り行事にお邪魔させて頂いたあと、
米山氏と筆者は上座の太夫さんの御宅に。

その間、宝蔵庫では当屋で用いる装束や道具類を準備していた。

ちょっと休息させて頂いたあと、
筆者は宝蔵庫をのぞきに、
米山氏は温海の赤いかぶについて調査しに出発。



(↑)宝蔵庫にて
探し物中の秋山篤司氏。
無事、見つかりました?

(↑)こちらは宝蔵庫の
入り口に飾られていた…
門松ですよね?



太夫さん宅に戻り、奥方のお手伝いをしていると、
ギョッとするくらい大きな声が聞こえてくる。

「ものんもうー、ものんもうー」

当屋からのお使いである。







予行演習どおり、バッチリの口上。
「…明日、おえ酒を開きます。おいでくださりませと申し越します。…」







こちらはお昼過ぎだろうか、
翌日の準備を終えて、太夫さん宅に集う若い衆。
精進鍋なので、魚類・肉類は入らず、
その分、山のようにたくさんのキノコ!







お腹が一杯になってきた頃、
七度半の使いの練習が始まる。

七度半の使いは、
2月1日に下座から上座当屋にやってくる
「暁の使い」への返礼として、
2月2日早朝、
上座から下座に使わされるお使いである。
お使いの役は、狂言役者さんである五十嵐重一氏、
お供で提灯を持つ役は釼持恵樹くん。
二人の間に置かれた酒瓶は、提灯のつもり。

…こうして1月31日が過ぎてゆき、
いよいよ翌日から2010年の王祇祭が始まる。



次のページでは、王祇祭当日の様子をご紹介します。



作成日:2010年2月8-10日

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